毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
しっかり教室へ向かい自分の荷物を取ってから徒歩十分で着く家へと走り、買い物に行こうとドアを開けた母と鉢合わせ、その表情が驚愕から恐怖へと変わったのがわかった。
そこでようやく重大なミスをしたことに気づく。
あの場から無事に逃げ出せたことで完全に油断しきっていた。
『かれ、ん……?なに、その髪……』
私の変わった髪を逸らさずに見つめている母は幽霊でも見ているかのように信じられない様子で、今にも腰を抜かしそうだ。
『……イメチェン』
ということにでもしておこう。私のポーカーフェイスもたまには役に立つ。真顔で言われたら嘘だと思わないから。
そしてしれっとあとで美容室に行けば大丈夫……
『どうして、そんな勝手なことをしたの……?』
……なわけないか。
洗うのこそ私に任せてはいるものの、お風呂上がりの髪の乾かしと手入れは母が毎日愛情込めて行っているんだ。そりゃこれだけ雑に切ったら咎めたくもなる。
だけど、ここで本当のことを話してしまえばおおごとになるのは目に見えていて……それだけは避けたい。
名前なんか出そうものならきっと母は学校に乗り込むだろうし、彼女たち四人が相応の処分を受けると言われるまで居座り続けるのが目に見えている。
もしそうなったとしたら自業自得という言葉で片付いてしまうのだが、彼女たちは中学三年生ゆえその処分が進路に影響してしまうかもしれない。
さすがに四人分の人生を壊す気にはなれなかった。
『なんの相談もなしにこんなことして悪いとは思ってる。でも、たまには気分を変えて短くしてみるのもいいかなって』
『頬も……可愛くない』
『え?』
『かれんが……可愛く、ない……!!』
私が並べる嘘を母は認めないだろうとは思っていたが、可愛くないとまで言われるのは予想外だった。
教室に荷物を取りに行った際、窓の反射に映った私はそれなりに可愛いと思ったし、なによりその言葉は母にとって"可愛い"しか存在意義を持たない私を否定することになる。
だって、そんなの……
『あなたは常に、完璧に可愛くないと……誰からも、愛されないっ!!』
母は、お人形の私も愛せないということじゃないか。