毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
怒りで顔を紅潮させている母へ、宣戦布告にも似た決意を表す。
母が変わらない限り、私も変わることがない。その意思を示し、私が今やるべきことはやった。
次にやるべきこと……髪の長さを揃えてもらうために美容室へ向かおうと踵を返し扉を開けたその瞬間。
『わたしの……わたしの、育て方を間違えた……。可愛くない子に、育ってしまった……いやあぁぁぁぁぁ!!!!!!』
先程とは比べ物にならない叫び声を上げた母に驚き振り返ると、髪を振り乱し、靴を履いたままリビングとキッチンがある部屋へと向かう姿が見えた。
なにをどうしようって言うんだ。
いくらスーパーに行くところだったとは言え、この状況で冷蔵庫を見に行くわけでもなかろう。
リビングにおいてある私のアルバムを破り捨てる程度で済めば可愛いものだが……なにはともあれ追いかけるのが最善と見た。
ため息を一つ吐き、荷物を端において靴を脱いでから母の背を追う。
そうして部屋に入りキッチンに立っている母を視界に入れ、ようやくそこで私の心臓が早鐘を打った。
『お母さん、なにしてるの。それ置いて』
『可愛くない子を育ててしまった……私は親になれなかった……私なんか死ぬべき……』
『いいからとにかくそれを置いて!』
『さよなら』
なんの怯えも躊躇いもなくグサッと。
持っていた包丁で自分自身の脇腹を刺した母は。
『可愛い子が、良かった……』
服と手を赤く染めながら、床へと崩れ落ちた。