毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


「結城さんの間違った噂を完全に信じたかどうかは僕にはわからないけど、あの場に居合わせたときの彼は明らかに結城さんと距離をとっていたから……そんなの、攫いたくなって当然だよね」


そう言ってにっこりと微笑む彼の真意が見えなくて困る。
私の味方でいてくれようとしているのはわかるが、攫う……とは?


「食堂であんなに堂々とイチャついてるのを見たときはいろんな意味でびっくりしたよ。彼のこと好きじゃないと思ってたのにアレを受け入れてるんだもの」


どうして笑みを崩さずにじりじりと詰め寄ってくるのだろうか。
今、そういう空気じゃなかったよね?
重い空気が流れてたはずなのに、いつから甘い空気に変わった?


というか、目が笑ってないの怖いんですけど。


「本当の君を知って離れていく彼を受け入れるのなら、知ってもなお君を選ぶ僕のことを受け入れて」


言ってることが滅茶苦茶だ。

私が彼を受け入れたのは本当の私を知られる前のことなのだから、"離れていく彼を受け入れた"わけではない。

そもそも、アレを受け入れたのは罪悪感を薄めるためであって、彼になんの感情もないのに。


「目、閉じて」


どうして王子様は懇願するような瞳をこちらに向けるのか。


……なぜ、私なんかとキスをしたがるのだろうか。


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