毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「僕は可愛くない君が一番好き。可愛い君も好きだから、結局は全部が好きだってことなんだけど……それでも、僕を選んでくれないの?」
こんなの、ずるい。
彼はどれだけ私を振り回せば気が済むのだろう。
私が求めていたことを……私を理解して恋愛の意味で好きだと言ってくれるなんて、目の前の手を取りたくなるに決まってる。
だけど……私は今、慎くんと付き合っていて。
そんな乗り換えみたいなこと、二人に対して失礼じゃないか。
それに、もしも私が彼の手を取ったとしても、私が人前で仮面を外すつもりはない。
またあのときみたいなことが起きて今度こそ人が死んでしまったら、私はどんな風に生きていけばいいのかわからなくなる。
今は水上くんに対して素が出てしまっているけど……明日になれば元通り。
素を出すことに慣れてしまったら、きっと仮面を被るのが難しくなってしまう。
そんなのあってはならない。
だから、私の答えは考えるまでもなく決まっている。
「水上くん、私は……」
───ピピピッ。ピピピッ。
私の答えを遮るように鳴った音は水上くんの携帯のアラームらしく、
「残念、時間切れ。更衣室に行こうか」
感情の読めない王子様スマイルを貼り付けた彼は、どさくさに紛れて手を繋いだまま建物へと入っていく。
……時間切れとはいえ断るのは移動中にもできたはずだし、彼と手を繋ぐのは不自然だから振り払うべきだった。
それがわかっていたのに。
……それをしなかった私は、やっぱり最低で卑怯な人間だ。