毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
【晴side】
夏休み中に友達と遠出した先でたまたま彼女を見たとき、僕は彼女が学校で注目されているお人形さんだとすぐには気づけなかった。
人目を惹きつける容姿なのは変わらなかったけど、その容姿が学校のそれとは随分と違っていたから。
いつもはふわふわと柔らかそうに揺れている金色の髪はどこまでも真っ直ぐで黒く、優しい水色の瞳もまた同じく黒へと変わっていた。
休みの日に偶然彼女に会ったという幸運なクラスメイトによると、彼女の私服はそのルックスに似合う甘めのものだったらしいが……僕が見た彼女は甘いと言うよりは清楚な服装をしていて。
廊下で見かけたときの子供のような雰囲気とは打って変わって、静かな大人びた空気を纏っていた。
隣にいる同年代の女子に笑いかけるそれも、学校でのものとは微妙に違っていて自然で、なかなか自分の目を信じられなかった。
もっとも、笑顔を向けられている女子が彼女のことを名前で呼んでいたから、彼女がお人形さんと同一人物だってことは決定的だったんだけどね。
『晴くんってば、ああいう子がタイプなの?熱心に見つめちゃって……いやらしー』
『そういうのじゃないから黙って』
『やだ!って、あっれー?あの子どこかで見たことあるような……?』
『見ちゃダメ。ほら、止まってないで早く行くよ』
『先に立ち止まったのは晴なのに〜』
じーっと目を凝らして遠くにいる彼女を見つめる親友の目元を両手で覆い、半ば強引にその場を離れた。
"本当の彼女を知る男は僕だけがいい"という謎の欲求が湧いて出てきたから。
彼女の綺麗な姿を少しも覚えていて欲しくなくて、しばらくはエネルギーが有り余っている友の望む全てに付き合ってあげた。
今思えば、そのとき既に僕は普段と違ったオーラを放つ彼女に一目惚れしていたのかもしれないね。
それを彼女に伝えたら他の男と同じだと思われそうだから絶対に言わないけど。