毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


そんな奇跡みたいな偶然が起きたのはその日だけで、課題に追われているうちに夏休みが終わり、そわそわしながら登校した2学期初日。


お人形さんは相変わらず幼く可愛く皆から愛でられていて、あの日の出来事は夢だったかもしれないと思わされた。


だけどやっぱり、可愛らしい笑顔がどこか作り物めいていて、不自然で。

完璧な笑顔のはずなのに、どこか苦しんでいるようにも見えた。


彼女が同じ空間にいると僕の視線は意図せずそちらに引き寄せられ、やがて彼女の笑顔やキャラは作り物なんだと気づいたとき、彼女のことをもっと深く知りたいと貪欲になった。


でも、彼女の全てを知るなんて顔見知りですらない僕には到底無理な話。


だから、僕は積極的になってみた。


人のためになにかをしたことなんて一度もなかったけど。


彼女が欲しいと目で訴えているのがわかったから。


取れるかもわからないクレーンゲームにお金を入れてみたり、居もしない妹の誕生日のためにという口実でシャーペンの交換を持ちかけてみたり。


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