毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
『───あっはは、そうだよね、みんなは可愛い私が大好きなんだもんね!』
そんな、明るく、大きく、空回った笑い声が聞こえて。
それが、今にも泣き出してしまいそうな子供の叫び声にも聞こえて。
慌てて声のする方へ向かうと、
『慎くん、大丈夫だよ。今の私はこれからもずっと変わらない。みんなに可愛がられて愛される、かれんちゃんのままだから』
そこには、なにもかもを諦めたような目をした……しかし、それを隠すように切なげに微笑みを浮かべる彼女がいて、息が止まりそうになるほど胸が痛くなった。
辛くて苦しくて、逃げ出してしまいたいのを堪えて。
それでもなお微笑む彼女はたくましい。
強くありたいと仮面を被る彼女は健気で危なっかしくて。
もういいんだよ、と。
身体も心も全てを包み込んであげたくなる。
その役目は本来、彼女の目の前にいる男がやるべきことなのに。
ついさっきまで見せつけるように愛おしそうに唇に触れていたくせに。
そいつはただ呆然と突っ立ったままで彼女に近づきもしない。
近づいたらそれはそれでまた苛つくんだけども。
……動かないのならそのまま見ていればいい。
こんなときでも溢れ出た"壊れそうな彼女を他の男に見せてたまるか"という独占欲に従うことにして。
『───何があったか知らないけど、僕なら彼女を泣かせない』
彼氏に対して宣戦布告をする以外の選択は存在しなかった。