毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす

変わらないものと変わるもの



……おかしい。ありえない。


「かれん?どうかした?」

「……あははっ、なんでもないよ〜」

「そう?だったらいいんだけど」


どうして慎くんはこんなに普通なんだ……?

なんで私たちはいつもみたいに仲良くお弁当を食べているのか?


そもそも、あの執念深そうな女子にとっくに言いふらされていて、周りの人たちも本当のことを知ってしまったと思っていたのに。

誰一人態度を変えることなく普通に接してきているのもおかしな話で。


『かれんちゃん、おっはよー!風邪なおった?学校に出てきてだいじょーぶ?』


なんて、仮病を使って宿泊訓練を途中離脱した私に、なっちゃんがいつもの朝と変わらず飛び付いてきたものだから拍子抜けだった。


もちろん私にとってそれはとても喜ばしいことで、周りが変わっていたとしてもキャラ変をするつもりはなかったけど。


「キャンプファイヤーのときのかれんは神秘的で綺麗だった」

「……ありがとう〜!」


慎くんは一体なにを考えているのか。


あの日、彼女の話を聞いて私が相手をする価値もない人間だと知っているだろうに、こうしてまた同じ時間を過ごしているのはなぜなのか。

それとも、彼女の語る真実を聞かなかったことにしたのか。だから未だに私のことを褒めてくれるのか。

もしかして、噂話が広まっていないのは慎くんのおかげなのか。


そしてこれらの疑問を、口に出してもいいものだろうか……。


疑問は多いものの、彼の考えが見えないのだから迂闊に口にできない。

前だったら考えていることが顔に書いてあったのに、今そこにあるのは笑顔だけ。

それが作り笑いなのか本物なのか、判断がつかない。


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