毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「……見てたけど見抜くことは出来なかった。俺が知ってるのはかれんが可愛いこと、みんなに優しいこと。でも、一定の距離を保とうとしていること……それくらい」
慎くんはぽつりと、言葉を落とす。
それからこう続けた。
「でも、水上は俺よりもかれんのことを見てて、かれんが隠してるものすべてを見抜いたんだろうな」
ふっと力を緩め、ゆったりと私から身体を離す彼は少しだけ吹っ切れたような顔をしていて。
水上くんに奪われるのなら仕方ないと、そう思っているように見える。
「あーあ。誰にも渡したくないなー」
「私はもう誰のモノにもならないよ」
「え……?」
「水上くんと付き合わない」
にこやかにそう言いきった私を、慎くんは驚きの目で凝視する。
それから腑に落ちないらしく、"なんで?"と目で訴えてきたけど、私はそれに気付かないふりをした。
もう彼のことを考えたくない。
考えてしまえば、この決断をあっさりと覆してしまいそうだから。
仮面を被り続けることが出来なくなってしまうから。
いろいろなものから目を背けることにした。
じっと睨むように見つめあっていた私たちだけど、やがて慎くんの方が諦めてくれて、緊張した空気が緩む。
「だったら、一つだけお願いを聞いてほしい」
急に目の悲しみの色を消して、いたずらっ子のような楽しげな色を見せながらそんなことを言うのだから、私は少しだけ身構える。
だけど、散々迷惑をかけたんだ。
どんなお願い……いや、罰であったとしても甘んじて受け入れよう。
覚悟してこくりと頷き、次の言葉を静かに待つ。
それを見てにやっと露骨に笑ったかと思うと、
「俺たちが別れたこと、みんなに言いたくない」
わりと大きめの爆弾を落とされた。