毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
どちらかと言えば私にばかり得があって、慎くんには損しかないと思うけど。
本人がここまで言ってくれるのならいっそお言葉に甘えるべきか。
ほんと、この人はどこまで人がいいのだろう。
「じゃあ、お願いしようかな!その代わり、やめたくなったらすぐに言うこと!約束ね」
「うん、わかった」
「ありがとう。私も、慎くんみたいな優しさを持った人になりたいなぁ〜」
と、指切りげんまんをしたところで、お昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り始める。
五分以内に教室に戻って次の時間の準備をしなければいけない。
早く戻らないと……
「俺は聖人じゃないから」
「え?なにか言った?」
チャイムに加え椅子をガタッと引く音で聞こえず。
聞き返すも首を横に振るから無理に聞くこともないと、先に教室を出る。
「……これくらいの妨害、許してくれるよね」
思惑を込めた小さな独り言が背中に届いた気がしたけれど。
聞き返す気力も、僅かに生まれた疑惑も。最後の予鈴に掻き消されてしまった。