毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
いきなりのことといい、図星を刺されたことといい。ドキリと心臓が嫌な跳ね方をしたが、幸い顔には出ない質だ。
まだ取り繕える。
私は用意していた言い訳を読み上げた。
「そんな酷いことしないよ!あ、でも……そもそも私たちは違うクラスなんだし、あれから一回も会ってないのは仕方ないことだよ〜」
ね?と、若干の上目遣いと首を少し傾けてみる。
これで大半の人間は騙されてくれるのだが……
「仕方ないこと、ね……ふーん?」
見る目麗しい王子様には効果がないらしい。
私を咎める視線が反れることはない。
それどころか、だんだん目から笑みが消えていってる気がする。
あっ、これ。今すぐに逃げた方がいいパターン?
「僕は優しいからね。君が僕の気持ちを受け入れてくれるまでじわじわ責めようと思ってたんだよ」
うん……?私は水上くんの気持ちを受け入れるつもりはないのだけど。
それに、どっちにしろ責めてくるのなら優しくないよね?
っていうかなに侵略しようとしてるの、なにを企んでいるの。
「でも君が逃げるからさ……追いかけて、捕まえて、がんがん責めたくなっちゃった」
なにそれシンプルに怖い。それを満面の笑みで言っているのが尚更怖い。
今ならサバンナにいる草食動物の気持ちがわかる。
というよりも、追いかけられるだけならまだしも、そのあとに捕まえて責めるってなにをする気なんだ。
ゆらりと席を立ってこちら側へ歩み寄って来て、なにをする気なんだ。
「み、水上くん、お行儀悪いよ!」
「動揺してるのにそれでも必死にキャラを保とうとしてるの可愛いね。好きだよ」
流れるように可愛いとか好きって言うの、やめようか。
王子様にとっては息をするように自然なことでも、私にとっては息が詰まるほどに慣れないことなんだ。
だから今すぐに口を閉じて元通り席に座って欲しい。