毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
……って、ちょっと待て。
慣れないこと?好きって言われることが?
ひっきりなしに告白され続けていた私が?
そんなわけがない。私は寝惚けているのか。
もう太陽は高い位置にあるんだ。さっさと目を覚ませ。
隙を見せてると私を追い詰めている悪魔が喜んで……って、ほら。
「こんなに近づいても逃げないんだ?僕に心を許してくれてるんだったら、嬉しいな。……それとも」
「は、離れてっ」
「他のことを考えられるくらいの余裕があるのかな?」
私が真面目に考え事をしている間に縮められた距離は、猫がすり抜けられるかどうかもわからないくらいの近さで。
普段なら不愉快だと感じるその距離に、抵抗どころか嬉しさを感じるなんて。
今日の私は私らしくない。
余裕?むしろ分けて貰えるのなら今すぐにでも貰いたいくらいだ。
私の姿をその瞳に映してくれるだけでも小さな喜びを感じてしまう。
偶然であっても必然であっても、学校外で彼に出会えたことに醜くも優越感を覚えてしまっている。
彼のせいで私の心臓も頭も、なんだかおかしい。
これは一体、なんなの。
私はこれ以上彼に関わりたくない。話しかけないで欲しい。
そう、願っているはずなのに。
どうして、こんなに喜びを……幸せを感じるの?
わけがわからない。こんな矛盾した気持ち、知らない。
これがなにか、知りたくもない。きっと、知らない方がいい。
これほどの幸せを感じるのは初めてで、怖くて、認めたくない。
だってこんなのを覚えてしまったら。
……なくしてしまったときが悲惨だ。
今度こそ絶望して立ち直れなくなるに違いない。
だから、お願い。
「私に関わらないで」