毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「え、嫌だよ。馬鹿なの?」
「……は?」
「僕は君のことが好き。僕は君と両想いになりたい。だから君にアプローチをかけたい。つまり関わらないなんて無理なの。わかる?」
何度目かになる水上くんから発せられるその刺々しい言葉は私に向けられたもので。
その後に続いたストレートな言葉たちは幼稚園児に説明するようにゆっくりと丁寧に並べられた。
それらがまたしても私の心にまとわりつき、大きく心を揺らすのが嫌という程わかったのだけど……これは気付かないふりをするのが正解。
平常心、平常心。
「うーん、わからない!とりあえず、お勉強するから話しかけないでね〜。ほら、私って水上くんの言うとおり馬鹿だから!」
ぐいっと胸を押しのけ、真剣な想いをテキトーにあしらうと、さすがの水上くんもこればかりは許せなかったらしい。
形のいい目がすっと細められ、鋭く私を睨みつける。
心なしか私たちの間に流れる空気もひんやりと感じられ、肝が冷えた。
でも、そんなの知らない。気にしない。怯えない。
矢のように降りかかる痛い視線を無視して、机に問題集とノート、筆記用具を取り出す。
そうだな……暗記科目は寝る前にやるのが効果的だから後でやるとして、ここでは理数科目をやろうかな。
と、問一を書き写し始めると、右手からシャープペンシルが抜き取られた。
そのペンを器用に回す姿も絵になるのだからずるいと思う。
って、そうじゃなくて。
勉強を邪魔するために筆記用具を奪うとはなんたる暴挙か。
学生の本分である勉学の妨害行為……これは許されない。