毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


「勉強出来ないじゃん!返してよ」

「これ僕と交換したやつだよね。家ではちゃんと使ってくれてるんだ」


そう言う彼の手にはいつぞやのシャーペンが握られていて。

真面目な私が日頃家で使っているのだからノックの部分が緩んできている。

わかりやすく使い古されたものだ。


それを見たからか、彼は一瞬で機嫌が良くなった。単純な人だな。


自分が持っているペンの中で一番のお気に入りだということを告げたらどんな反応をするんだろうか。


そんな興味が湧いたけど、調子に乗りそうだからやめておこう。


「……使わないとペンが可哀想だもん」

「ふーん……そういう事にしておいてあげる。まぁ、僕が言いたいのはこれのことじゃないんだけどね」

「言わなくていいよ」


私の仮面の下を簡単に見破ってしまう王子様は、私が遠回しに言うなと言っているのがわかっているくせに、言葉を止めようとしない。

なにかを企むような顔をしてるから、絶対ろくなことを言わないに決まってる。すごく嫌な予感がするけど、これは当たってしまうんだろう。


「ゲームセンターではチョコをあげたし、シャーペンは好きなのと交換してあげたし……なにより、文化祭のときには熱中症になりかけていた君を助けてあげたよね」

「言わなくていいっていったよね!もうお口チャックしようね!」

「しー。これは僕が恩着せがましいんじゃなくて、君が文化祭のときに約束したことだよ」


水上くんの綺麗な人差し指が私の唇にわずかに触れる。

意識がそこへ集中してしまいそうになるのを堪えて彼の言っている約束とやらについて考えた。


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