毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


「別に否定してるわけじゃない。事実を言ってるだけ」


あくまでも見て見ぬふりを貫くみたい。

私にまで鋭い視線を向けてくるあたり、必死なのが丸わかりだね。

ツンデレ猫さんみたいで可愛く思えてきちゃう。


「あの人といるとボロが出まくりで困る。私はもう舞以外の前では素を出さないって決めたの」

「私が特別ってことだよね。それは嬉しいな」

「そうよ。大切な人は一人でいい」


空気を和ませようとふざけてみたけど、あっさりと肯定されたからそれは叶わなかった。


可愛いキャラを演じ続ける。自分を偽り続ける。

そんな決意が固い証拠だ。

気ままに生きてそれを否定されたから、自分の心を殺してでも他人の幸せを壊さないように生きる。


自分の信念を貫いて、そのために努力をしてきたかれんちゃんは昔からかっこよくて、今でも凄いってそう思うのに。



……今のかれんちゃんは、生きてるのに死んでるみたい。



かれんちゃんは頑固だから、それを他人が崩すのは難しい。

かれんちゃんが閉じこもった殻は、私には壊せない。救ってあげられない。

近くで傷ついた姿や頑張っている姿を見てきたからこそ、下手な慰めや軽い言葉はかけられないの。


だから……せめてこれだけは言わせて。


「……私は、かれんちゃんが幸せならそれでいいよ」


相変わらず潤むことのない、感情を殺した瞳でこちらを見つめるかれんちゃんは……


「私には幸せになる資格なんてないよ」


そう言って諦めたような顔をしたあと、力なく笑った。



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