毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
夢のような
いっそのこと台風でも来てしまえば、約束がなくなるのではないかと期待してみたが。
『結城さん、迎えに来たよ。今日はよろしくね』
インターホンに映る水上くんの顔も窓から見える空も晴れやかで、反対に私の心は荒んだ。
嫌味なほどに似合う白を基調とした私服姿も、いつもの貼り付けた笑顔とは違った素の笑顔も、かっこよくてムカついた。
そもそもなんでこの人は私の家を知っているんだ。
誰にも教えた覚えはないし、学校からも遠いから偶然見かけることもないはずなのだけど……いや、これは深く考えると怖いからやめておこう。
そうして電車でお互いに周りの視線を受けながらやっとついた水族館。
日曜日ということで家族連れやカップルが多く来ており、混雑している。
私たちは傍から見たら休日に二人きりで出かける男女。
もしかしたら……
「───僕たちもカップルに見えてるかもね」
……勝手に心の中を読むな。
「手も繋いでないし、なにより仲良くもないからそこは大丈夫だと思うよ!」
「ふっ……手、繋ぎたいの?」
「繋がない!」
「照れなくていいのに」
うるさい。鼻で笑うな。都合のいいところだけ切り取るな。
しれっと手を繋いで指を絡めるな。
可愛いって呟くな。聞こえてるんだからな。
こんな序盤からペースを崩されてどうするんだ、私。