毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「写真はお礼の中に含まれてないから、消そうね?」
どうせいうことを聞いてくれないだろうから、言うだけ言って置いていくことにした。
近くにいたらなにをされるかわかったもんじゃない。一瞬でも気を許せばアウトだ。
いくらここがいい雰囲気のところだからって私は騙されたりなんかしないぞ。
「わー、綺麗だね」
警戒する私のアウトラインのギリギリ隣に来た水上くんがふわふわと漂うクラゲを見てそんな呟きを漏らした。
円柱に閉じ込められたクラゲたちは下からの色とりどりのライトに照らされて、幻想的に輝いている。
もっと奥の方の水槽には小さなクラゲがうじゃうじゃと一定の流れを作りながら大きく回っている。
なにも考えずに本能で生きているこの子たちが羨ましいと、どうしようもないことを考えてみた。
「写真撮ってあげる」
「その手には乗らないよ〜」
「それは残念。ぼーっとしてたから引っかかってくれることを期待してたのに」
代わりにクラゲ単体をパシャりと撮る彼はちっとも残念だなんて思ってなさそう。
僅かな私の変化を見逃さずにわざと私に絡んで来たのか。それともただの欲に従っただけの行動か。
後者だったら私も気が楽になるのに。
きっとそうじゃないんだろうな。