毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
告白されたときから気になっていたのかと振り返ってみたけど、もっと前から自然と視線が引き寄せられていた。
初めて言葉を交わしたあの日……慎くんとデートをした日だ。
私の欲しいものに気づいて、与えてくれて、それ以上は無理に近寄ってくることのない。不思議な人。
女子にチヤホヤされて笑っているのを見て、普通の男子高校生だと落胆した。
文化祭の買い出しのとき。
レジ係の店員さんに丁寧に会釈したりお礼を言ったりしているのを見て、礼儀正しい人だと知った。
廊下では人の通行の邪魔にならないようにさりげなく女子を引き寄せているのを見たとき。
周りをよく見られてると感心した。
お昼休み中に水上くんがいる教室の中を覗きながら廊下を通ったとき。
一瞬だけ見えた箸の持ち方が綺麗で、思わず足が止まりそうになった。
文化祭のときは助けてもらってありがたくて。警戒心とは裏腹に、心の奥底では水上くんがいてくれて良かったと思った。
修羅場で泣きそうになったときに私の手を引いたのも。
私の過去を一番初めに知ってくれたのも。
水上くんで良かったって。嬉しかったって。
そう思ったのに、それら全てに蓋をして気付かないふりをした。