毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
昨日、背中を押してくれた水上くん。
今日の朝、味方のように感じさせてくれた広い青空と秋の風。
私は出来ると。何にも屈することなく二人には真実を伝えられると。
そう、確信すらしていたのに。
土壇場でこのザマとは……今すぐにでも水上くんの靴箱の中にある紙を回収しに行きたい。
こんな逃げ腰じゃ、罪を告白する勇気がいつ出るのかわからない。
もしかしたら、卒業する直前まで仮面を被り続けるかもしれない。
それでいて『待ってて』だなんて、わがままにも程があるだろう。
水上くんは頼ってと言ってくれたけど。
これは自分の問題なのだから自分で解決するべきことで。
私のやってきた罪の重さを考えると、協力してもらって茶番を繰り広げる、なんてせこいことは出来ない。
自分の口で話して、ごめんなさいと頭を下げるべきなんだ。
甘かった。
覚悟が足りなかった。
勢いだけでいけると思った私が馬鹿だった。
二人へ曖昧に頷いて、得意の笑顔でお茶を濁していると……
「水上くん、おはよう!」
「あれ?なんか嬉しそうだね!いいことでもあったの?」
「いつにも増して輝いてるんだけど!!かっこいいー!!!」
いつもの五割増しの女子たちを引き連れた想い人が、教室の前で立ち止まった。