毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
ふらりと、椅子から立ち上がり彼の元へと歩み寄る。
なっちゃんが私を止めようとなにかを言っているのが聞こえたが、振り返ることはしなかった。
頭の中は空っぽで、自分でもなにをしようとしているのか、なにを言うつもりなのかわからない。
ただ、今は彼と彼女たちを引き剥がしたい。
その一心だ。
「水上くん、随分嬉しそうにしてるじゃん」
「結城さん、おはよう。それがどうかしたの?」
あくまでも落ち着いている彼に比べて、私は挨拶をする余裕もない。
周りがどんな反応をしているかも見えず、私の目が映しているのは水上くんの顔だけだ。
その顔がこちらを向いたとき、意図的に薄っぺらい笑みへと切り替えたのがわかり、負の感情が心を埋めつくした。
悲しみと怒りが拮抗している。
「そう……その程度の気持ちだったってことか」
「そんなわけないって、ほんとはわかってるよね?」
「知らない。もう二度と話しかけるな」
そう言って力強く彼を睨みつける。
そこにはいつも纏っている緩んだ雰囲気は微塵もない。