毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


じっと目で訴えかけていた水上くんは、やがてこれで我慢すると言うようにそのまま私の手のひらにちゅっと一つキスを落とすと、ニヤッと意地悪に笑んで顔を離した。


キスを落とされたとき、ぴくっと反応してしまったのが良くなかったらしい。


水上くんといたらこんなドキドキを毎日感じなければいけないなんて、いつか心臓発作でも起こして死んでしまうんじゃないだろうか。


そんな物騒なことを考えていると、私を見て笑っていたはずの彼が不機嫌そうな顔になってこう言った。


「なんでキスしちゃダメなの?坂本くんとはしたのに?」


……まさか、ここで慎くんとのことを言われるとは思わなかった。

少し考えれば水上くんと慎くんとの違いはキスに至るまでの期間だとわかりそうなものなのだが。


それに、


「アレはそうしなきゃいけなかったからしただけで……好きになったのは水上くんだけだし」


慎くんとのキスは愛があるものじゃなくて、羨ましがるようなものではないと思う。

もしも嫉妬しているんだとすれば、それは無意味なものだ。


私は慎くんのことを好きじゃないと、あれだけ自信満々に言っておきながら、こういうときは不機嫌になるなんて面白いな。


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