毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「あの、ほんと、恥ずかしいからダメ」
「……ふっ。顔が真っ赤だね。美味しそうで食べちゃいたくなる」
「……冗談?」
「さぁ、どうでしょう?」
そうして、最後に一つ首筋に甘い音を鳴らせると、後頭部に添えられていた手が今度は背中へと回る。
今度はなんだと反射的に身を固くすると、ただ落ち着くような優しいハグで、身体の力が抜けていく。
「仕方ないから今日はここまでで我慢してあげる」
結局のところ、水上くんはなんだかんだで私に合わせてくれる。
たまに暴走して強引な部分はあるが、引き際が正しく、嫌な思いにはならない。
とことん私の心を見抜く、チートみたいな人だ。
「そういえば、これからはかれんって呼んでもいいかな?」
みんなに呼ばれているときはなんともないのに、水上くんが名前を呼ぶとなぜだか特別な感じがした。
名前を呼ばれるだけで幸せって、恋人って最強なんだ。
「いいよ。私も晴って呼ぶ」
「わかった。なんか恋人っぽくて幸せ」
今まで散々恋人らしいスキンシップを取っておいてなにを言っているんだ、と突っ込みたくもなったが、幸せなのは同じだからやめておく。
細かいことは考えず、この甘い雰囲気に浸っているのも悪くない。