毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
実は、この場所に来るのは人生で初めてだ。こんなところに女子のみで来るのは、わざわざ自分からストレスを浴びに行くようなものである。
実際に景品を取る姿というものを間近で見て、『あっ、箱についてる輪っかを狙わないの?あぁ、てこの原理を使って落とすんだ。何その技、凄い』と、軽く感動した。
ただ、彼が『かれんが好きそう』と言って取ったものは予想通りで、可愛らしいピンクのパッケージをした苺味。
欲しい味ではないのが残念だが、好きそうねのが苺味だと思われているのは私の日々の努力の賜物だろう。
演技の成果を実感出来たのは良い事だ。
「はい、どうぞ」
「わぁ、ありがとう!あっさり取っちゃったの、凄くかっこよかった!」
素直に思いを伝えると、慎くんも嬉しそうに微笑む。
うん、こういうお兄ちゃん欲しいかも。
温かい優しさで全てを包み込んでくれそうだ。
私は一人っ子だから兄弟がどんな感じなのかはわからないが、慎くんはきっといいお兄ちゃんなんだろう。
それは妹キャラを演じていて何となくわかってきた。
「チョコを食べてて。ちょっとお手洗いに行ってくる」
「はーい!」
……と良い返事をしたものの、今は手に持っている激甘なものを食べる気分ではない。
なんだか箱を開けるのが恥ずかしかったから家で開けることにした、とでも言い訳をしよう。
そして、じー……っと。
未練がましくビターチョコを見つめる。
ビターだったら甘さ控えめだから、苺より美味しく食べられるんだけどなぁ。
「──ちょっとそこ、いいかな?」