毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
『可愛いと思います!好きです!』と言われて嬉しくなったことは一度たりともない。
容姿が可愛いから性格も可愛いのが当たり前、と思っている人が多いのが悩みの種。
理想やイメージを押し付けて勝手に期待されて裏切られたと被害者面をする。
迷惑な話だ。
期待なんかしないでほしい。
本当の私は愛想のない、可愛くない人間なのだから。
「あれ、一個増えてる。自分で取ったの?」
容姿について苦い思い出が掘り起こされそうになったとき、タイミング良く慎くんが戻ってきた。手の中で増えているビターチョコを見て不思議そうな顔をした。
「ううん。違うよ。通りすがりの人がくれたの」
そうだ、ビターチョコを手に入れたんだ。
勉強で疲れた時の息抜きに一つ口に放り込むだけで手軽にエネルギーを摂取できる。
甘さ控えめで丁度いい。
勉強が捗ることを考えると、地味に嬉しいプレゼントだ。
ブルーな気持ちになっている場合ではない。
「そっか、それは良かったね」
「うん!……ところで、準備はいい?」
先程と同じく、優しい微笑みを浮かべた慎くんにそわそわと問いかける。
「え、準備?」
「そう!心の準備出来てる?」
何に対する心の準備か、しばらく思考を張り巡らせた結果──
「プリクラか、もちろん出来てるよ!」
「それじゃあ初プリ行ってみよ〜!」
二人でキラキラと眩しいブースへ入っていった。