毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「かれんちゃーん!」
以前と同様、がばっと大胆に勢いよく飛びついてきた……えっと、名前なんだっけ……古川さん……?だっけ。
とりあえず、恋バナ好きの女の子がぎゅうぅっと抱き締めてくる。今日も暑い。
「テストお疲れ様だね〜」
「テストの話なんてしたくないよぉ!恋バナしよう!……で、昨日はどうだったんですか、奥さん」
私の労いの言葉を一蹴した彼女は、にへにへと緩みきった顔をこちらへ向け、ふざけた口調でほっぺたを指でつんつんとつついてくる。
恋バナ好きである彼女が絡んでくる……こうなることは昨日のうちに予測済み。
行動がパターン化していて実に扱いやす……いや、可愛いものだ。
答える代わりにニコッと微笑んでスマホの裏をすっと見せる。
「こっ、これはっ?!芸術?!?!」
ちょっと何を言っているのか分からない。
ただのプリクラです。
私と彼氏のツーショットです。
という言葉が喉元まで出かかった。
そんな私を他所に彼女は私の手からスマホを奪い取り、しれっと画像を送信している。
以前、流れに乗って連絡交換をしたことが仇となったようだ。
……って、ちょっと待って。今スマホのロック解除した?
いつの間に私のパスワードを知り得たの?
そして勝手にフォルダを漁るのも止めようか。少しは躊躇いというものを見せてくれ。
「目の保養ゲット!」
彼女の行き過ぎた行為には今回限り目を瞑ることとして。
彼女の言う芸術という言葉はあながち間違いでもない気がしてきた。
確かに、ただでさえ可愛いと言われている私と、イケメンの部類である慎くんにプリクラの機能によって更に補正がかかる──補正とはいえ直す部分がないから違いといえば背景や照明くらいなのだが──のだから芸術は言い過ぎだとしても、どこぞのメディアのフレーズを借りるとするならば『奇跡の一枚』になるのだから。