毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「苺味は昨日家で食べちゃったから、今日はビターを食べよっと」
なんて、言い訳がましくも真っ当な理由を口にした。
うん。やっぱりビターは甘過ぎなくて美味しい。
……と、廊下から視線を感じる。
───パチッ
さりげなく視線の元へ目をやると、そこには昨日と変わらない王子様スマイルを浮かべた、チョコの贈り主が女子達に囲まれていて……その中央から向けられる視線と私の視線が交差した。
笑顔を浮かべ、女子達の話を聞いているように見えるものの、よくよく見れば実際は少し流しているようにも見える。
だからこそ、教室の中にいる私と目が合ったのだろう。
どこから見ても、誰が見てもかっこいい完璧な笑みとは別に、目にどこか満足気な色を浮かべた彼は女の子達に囲まれたまま教室を通り過ぎていった。
満足気ということはやっぱり女の子に囲まれて嬉しいのだろうか。
王子様と呼ばれていても、所詮ただの男子高校生ということか。
それは私には関係の無いことだしどうでもいいけれど……。
あなたにいただいたお菓子は美味しくいただいております。
ありがとうございました。
そう、心の中で伝えておく。ついでに心の中の私は90度のお辞儀をした。
直接お礼を言おうにも私達の間に接点が皆無であり、その中で突然私が王子様のところへ行くとすれば、それだけで常に噂を求める獣達に新たな餌を撒くことになりそうだ。