毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
大人しく咀嚼することに集中。
そして、作ったものでは無い、ごく自然な幸せに満ちた笑みを浮かべる。
あーん、の段階から鳴り響いていたカメラのシャッター音なんて、今は気にしない。
「かれんちゃんずるーい!私もあーん」
「盗撮という罪を犯した千夏にあげる食べ物はない」
「そんな〜!殺生な!!」
私と同様、餌付けされている古川さんはわりと本気で落ち込み、抗議している。
こんなに美味しい卵焼きが目の前にあって食べられないとは……自業自得とはいえ彼女に同情する。
「日頃の行いを見直すべき時だと思う」
「可愛い子を前にして何もしないでいられるほど私は愚かじゃないの!」
「何かする方が愚かでしょ」
「えっ……ちょっと何言ってるか分からない……」
「えっ」
お互い信じられないという目で見合っている。
一般的には凛の方がド正論を述べているのだが、この場においては古川さんに賛同する人の方が多いだろう。
私が可愛いのだから仕方がない。うん。
「古川さん、私の卵焼きあげるね。甘くて美味しいよ!はい、あーん。凛ちゃんも、ご飯食べよう〜」
我が身を犠牲にするという妥協により、止まっていた時間は再び動き出したのであった。