毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
【晴side】
ようやく彼女の出番が来たみたい。
一学期の間は男女で同じ種目をすることがなかったから、彼女の運動する姿を見るのはこれが初めてで、どんな動きをするのか楽しみだ。
現在、試合に出ていない男子生徒が女子コートに露骨に視線を浴びせている。
彼女は体育の授業中ということもあってか、いつもは下ろしている髪を耳の下あたりで左右それぞれで結んでいて、その姿がまた愛らしく男子の心をくすぐっている。
本人も、その心を知っているのかはわからないけれど、視線を集めていることはわかっているらしく眉を八の字にして困った顔をしていて。
見られて緊張しているのならともかく、困り顔というのはなぜなのだろう?
緊張して思うように体を動かせなくなって困るから……ってことなのかな?
と、疑問を浮かべているうちに試合が始まった。
「かれんちゃん!」
「私に渡さないで〜!」
────パシッ
「はい次!」
「やめてってば〜!」
────ダンッ、パンッ。
嫌がる声を出す彼女に容赦なくパスを回す古川さん。
彼女はいかにもシュートを決められそうなときもシュートを放つことすらせず、ひたすら他の人にパスを回す。
チェストパスだけではなくバウンドパスを使っているところを見ると、もしかしたら下手ではないのかもしれない。
女子は宙を舞うパスが好きみたいだからね。
こうしてじっくり彼女だけを見ていると……下手というよりもむしろ、上手なのを隠しているようにも見える。