毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


「おぉー!!一組!いけぇー!!」

「そうだ!!勝て!!勝つんだ!!!」


突如、男子コートへの応援が女子のみならず男子も増えた。


彼女に釘付けだったのに急にどうしたのだろうか?


隣で観戦しているクラスメイトに聞いてみたところ、負けた方が勝った方に焼肉を奢るという賭けをしたそうだ。

体育の授業でそういうアホなことをするのはいかにも男子高校生って感じだ。

彼女がバスケをするというレアな姿は、どうやら焼肉に負けたらしい。
彼女としては視線から解放されて清々しい気持ちになっていると思うけどね。


そして、女子達の視線は相変わらず男子コートに向けられたままで、女子コートを観戦しているのは今や彼女の友達の霧生さんと自分くらい。


……っと、彼女が突然にやりと笑った。


今まで見たことのない、彼女に似つかわしくない表情にどきりと心臓が跳ねる。


───スパッ。


彼女が放ったボールは回転がかかったまま大きな弧を描き、リングに当たることなくゴールへと吸い込まれる。
とても気持ちいい音。

さっきまでの視線の量だったら、きっと大騒ぎだろうけど……。


「いいぞー田中!もっと行け!!」

「二組ー!もっと点入れろ!!」


男同士の白熱した戦いを前に、彼女の見せ場はぼやけている。
今の華麗なシュートを見たのは、男子の中では自分だけで。


コート内にいる女子達はわざわざ、モテモテな彼女の良いことを口に出したがらない。つまり、彼女が相当バスケが上手いという話が広まることはないわけだ。


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