毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


視線を受けていたときの困り顔、パスを回されたときの嫌がる顔はどこへ行ったのか。


純粋にバスケを楽しんでいる顔は眩しく輝いていて、魅力的だ。


綺麗に作られた100%の笑みよりも、自然にこぼれ落ちる笑顔の方がいいに決まっている。


……それにしても、視線の量が減ったからってこんなパフォーマンスを発揮しちゃって。詰めが甘いね。

目立つことを嫌っているくせに、最後は欲に抗えなかったのかな?なんだか可愛らしく思える。


視線を浴びたときに緊張した表情じゃなくて困り顔だったのは、みんなに見られていて動きを制限しなきゃいけなかったから。


そのあと人々の目線が外れてから大胆なシュートを決めたことを考えれば、自分の考察は正しいと思う。


もしも視線を集めている時にシュートを決めれば、それだけで彼女の異性からの好感はさらに上がり、同性からは妬まれることになるんじゃないかな。


"ちょっとおバカな妹キャラ"でなめられつつも親しまれている彼女。


そんな彼女の、周囲の状況を把握した上での慎重な行動に、実は馬鹿でもなんでもないのではないか?と思わされる。

予想が確信へと変わり、好奇心が……彼女を問い詰めて、彼女が隠す全てを暴きたい衝動に駆られる。


……いや、それはまだ早い。時期尚早というものかな。

それに、大して関わりもないまま仲良くもない自分が問い詰めてガードを固くされても困るよね。うん、やめておこう。


試合が終わって息ひとつ上がっていない、しかし、暑さで火照った顔で、古川さんと霧生さんの間に座り込んでいる。

その表情はいつもの綺麗に作られた100%の笑顔で。

夏休みに見た"アレ"とは正反対。


────本当の君は一体どんな顔をしているのだろうね。




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