毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
第一回文化祭実行委員会が開かれる放課後。
「──一組の文化祭実行委員は君だったんだね」
どこかで聞いた事のある耳触りのいい声が上から降ってきて、なんとなく目を通していた実行委員の名簿からそちらへと目を向けた。
「僕のこと、覚えてるかな?」
今までに何度か見た整った笑顔を浮かべて話しかけてきたのは、いつぞやのゲーセンでお世話になった王子様だった。
「もちろん覚えてるよ!あのときはありがとね、美味しかったなぁ」
「それは良かった。ところで僕の名前、知ってる?」
おっと、急に爆弾を落とされた。
思ってもない罠に、顔ににこにこ笑顔を貼り付けたまま、ぴしりと固まってしまう。
この学校の人気者の王子様の名前を知らない女子なんて、学校中探しても私くらいしかいないだろう。
普通の女子であれば、ゲーセンであんな接触があったのだから友達に聞くなりなんなりして名前を知る。
……つまり、私がここで知らないと言ってしまったら、普通の女子でないことがバレてしまう。
人に興味が無い女、冷めた女。
その事がバレてしまったら。
こういうときこそ、冷静に考えろ。
と、ここまでおよそ一秒。
手元の名簿があることを思い出した。