毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
私は。
可愛い私でなければならない。
それを忘れてはいけない。絶対に、だ。
夏休みボケだろうか。最近、気が緩んで仮面が剥がれかけることが増えている気がする。
少し前までは自然にできていたはずなのにな。
しっかりしろ、私。
「これを買ってくるから、先にみんなのところに行ってて〜」
「わかった!」
素直に頷いた彼女はみんなの元へ合流した。
それと入れ替わるように王子様がこちらへ向かってくる。
「水上くんも何か買うの?」
「うん、結城さんと同じく、シャーペンが欲しかったんだ」
なんとなく気まぐれで、王子様はどんなものを選んだんだろう?と気になった。
なにを買ったのか聞こうとしたところで、レジにいる店員さんに呼ばれたためそれは叶わなかったが。
後ろ髪を引かれつつもお会計を済ませて2人でみんなと合流したところで、
「結城さん、どんなシャーペンにしたの?」
興味津々という顔をして同じクラスの男の子が私に尋ねた。
内心、面倒臭いと思いつつも袋から取り出して見せる。
「やっぱりこういうのが好きなんだ。可愛い」
やっぱりという言葉にちくっと胸に刺さったような感覚に陥ったが、その胸の違和感には気づかなかったふりをして、私は愛想良く笑った。