毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「ほんとだ、可愛いね」
隣にいた王子様が私の手元を覗き込んで、そう言った。
「えへへ、選んでもらったんだ〜」
にこにこと表情を作ったまま声のトーンを上げる。
そんな私の顔を、王子様はやけに真剣な眼差しでじっと見つめた。
私も口を閉じてじっと見つめ返す。
目を逸らしたら負けな気がしたから。
既に日は落ち、辺りが夜の喧騒に包まれている中、私達のこの時間は異質で際立っていた。
「……それ、僕のと交換しない?」
「え?」
たっぷりと時間をかけた割にさらっと、意味のわからない提案した王子様の言葉に、驚きの声を上げたのは私ではない。
傍でやり取りを見ていたクラスメイトだ。
「えー、なんでー?」
私は小首を傾げ、単純な疑問をぶつける。
クラスの女子であれば、可愛いもの欲しさに交換しようと提案するのはわかるが、なぜ目の前の爽やかな王子様がピンクとハートという乙女チックなものを欲しがるのか。
「水上くんは理由もなくそんなこと言わないでしょー?」
王子様と関わったのはゲーセンでアームを一度動かした程度の時間と、委員会での顔合わせの時間、そして今日の買い出しの時間。
きっとここにいる誰よりも関わった時間は短いし、彼のことを知らないだろうけど。
それでも、その唯一関わった少しの時間で、彼が突拍子もなく人の物を欲しがり、なおかつそれを口に出すような人とは思えなかった。