毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


「僕の名前、水上だからね。なんとなく水色に愛着が湧くんだ」


一瞬、このシャーペンが気になっていたことがバレたのかと冷やっとしたが、選んだ理由を聞いて安心した。


「そうなんだね。これ、前に弟が持ってるのを見かけたから、ちょっと驚いちゃった」


あはは、と先程の驚きを隠すように笑う。
そうなんだ、と納得してくれた王子様を見てほっと一安心。


私は一人っ子故に弟は存在しない。
このシャーペンを見て驚くこと自体が不自然なものであり、それを自然にするための嘘である。


……息をするように嘘をつけるようになってしまった自分が怖い。
同時に嫌なやつになったな、とどこか冷静にそう思った。


「水上くんって妹いたんだ。知らなかったね」

「私達の情報収集もまだまだってことだよ!」

「それを言うなら結城さんも弟がいるなんて初めての情報だよな」

「それな!びっくりした。やっぱ弟も可愛いのか?」


考え事をしていた私は、そんな会話が間近で繰り広げられているなんて露知らず。


「……おあいこってことかな」


密かにニヤッと笑った王子様の独り言は誰の耳にも届くことなく、闇夜に消えた。



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