毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「うーん。すばしっこいわね……あとは任せた!委員長!」
「らじゃっ!かれんちゃんを捕まえてくる!」
少し離れた後方で選手交代の声が聞こえた。
逃げつつも後ろをちらっと振り返ると、頭1つ分飛び出た、文化祭実行委員長である男子生徒が嬉しそうに笑顔で追ってくるのが見える。
大きい男が笑顔で小学生の背丈の女の子を追うというなかなかの構図が出来上がり。
もはや、恐怖の鬼ごっこだ。
しかも今日は文化祭。
人口密度はいつもの比ではない。
顔を見られてしまっては捕まるのは明らかであり、それを避けるためにも顔を伏せながら人の間をすり抜ける。
むろん、このみんなの目を引く金色の髪と小さい体のみでもバレるリスクは相当なものなのだが。
「はぁ……面倒」
誰にも聞こえないように配慮しつつ、少しのイライラを言葉にして漏らす。
ストレスを溜めるのは体に良くない。
ガス抜きは大切なのだ。
文化祭も既に中盤となり、校内は人々の熱気と興奮に満ちていて、耳を塞ぎたくなるほど騒がしい。
私の本気スイッチが入ったことなど、誰も気づくはずもない。
運動神経が良いから逃げ切られた、と思われることは多分ないし、小さいのが人に埋もれたから見失った、で片付けられると思う。
「あーちょっとすみません!避けてください!……あっ、ごめんなさい!」
遥か後方でデカい図体により足止めを食らってひたすらに謝っている声を聞きながら、
「あっかんべー!」
勝利の笑みを浮かべると共に舌を出して、走る速度を加速させた。