毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「無視は良くないでしょ?」
茶髪の男の友人その一が後ろから私の両肩に触れる。
友人その二は何も言わずに、私の周りの残りの空間を埋めるように左へと移動した。
……えっと、これは結構不味い状況なのでは?
「私、忙しいんですよね〜。ほら、この腕章見てくださいよ」
追ってくる先輩たちから逃げた先に別の敵がいるだなんて事態を想定しておらず、私にしては珍しく内心焦っている。
焦っているからか、それとも疲れか。とにかくまともに頭が働いていない。
とりあえず、苦肉の策としてダメもとで自分の左腕の『文化祭実行委員』の腕章を見せつけた。
「そんなのサボっちゃえばいいよ」
「そうだよ、君がいなくてもみんな文化祭を楽しんでるって!」
「俺たちの道案内してくれない?」
『自分に与えられた役目を放棄することなど有り得ない』
『みんなが楽しむところ以外のマナーや規律面の監視があるんだ!』
『道案内と言われたらやると思ってんのか。道案内という名のナンパだろ、騙されないぞ』
それぞれに対する反論の言葉が思い浮かぶ。
完璧な笑顔で言葉を放てば、幻聴と思って私の口の悪さが広まることはないかもしれない。
いっそのこと、思いのままに言ってしまおうか?
冷静でない脳みそに従い、口を開こうとしたそのとき。
────ぎゅっ。