毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
私の両肩に乗せられていた手がそのまま前へと回され、驚きで一瞬息が止まった。
どうしたことか、出会ったばかりの人にハグをされるという初めての経験をしてしまった。
腕の中からどうにか抜け出そうと身を捩っても、男の人の力というものは私の力ではどうにもならず、自由になることは叶わない。
どうしようもないとわかった途端、なんだか一周まわって気持ちが落ち着いてきた。
よし、これなら少しはまともに脳みそが働いてくれる。
これからどうしようか。
こんなとき、可愛い子ならパニックで泣き出してしまうんだろうな。
そしたらそこにヒーローが現れてヒロインを助けるんだ。
涙目にすらならない私は本当に可愛くない。
演じているキャラとはまるで正反対だなとつくづく思う。
「やめてください!大声を出しますよ」
動かせる範囲で首を動かし、私を拘束している張本人を、キッと睨みつける。
「睨む顔も可愛いね。でも、大声を出したところでこんな人気のないところには誰も寄り付かないって」
ふっと鼻で笑って一蹴する男に賛同して残りの二人もゲラゲラと大きな声で笑う。
私は追われていた時、人気のないところを目指して走ってきた結果ここに辿り着いた。
ここが人目のつかない、校舎から離れたところであるというのはこの男の言う通りであった。