毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「あー、でも……もしも誰かが近くにいて、君の叫び声でここに来られたら困るなぁ。……口、塞いじゃおうか」
気持ちの悪い笑みと男が言っていることの両方に背筋がゾッとする。
だが、震えている暇なんてない。
私が振り向いたことで元から近くなっていた距離を、じりじりとさらに縮められていく。
抵抗せず大人しくしている私が諦めたのだと勘違いした男が、唇が触れる数センチ手前で慣れたように目を閉じた。
ふっ……甘いな。
「……?」
私が鼻で笑ったのを空気で感じ取り疑問に思ったのか、今にも触れそうだった唇を近づけるのを止め、目を開く。
────ゴンッ!!
キスをする距離でなければ届かなかったであろう相手のおでこを目掛けて、渾身の頭突きをかました。
見事に決まったおかげで、痛みに悶絶した男の腕が緩む。
「は?!えっ……ぐっ……」
「おっ……?……ぐえっ!」
緩んだ腕から抜け出したあと、呆気に取られて動けなくなっていた残りの二人へ、鳩尾へのグーパンとお腹への回し蹴りを喰らわし、素早く距離を取った。
この間、およそ三秒。
昔から変質者に絡まれることが多い私は護身術を少し嗜んでいる。
……実践でやったのは初めてだが、意外と成功するものなんだな。
頭やお腹を押さえ、痛みに悶絶している大学生達。
一撃でここまで効くとは、男達が貧弱なのか、私が女子からぬ力を放ったのか。
いずれにせよ、とりあえず今は逃げるが勝ちである。