毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


「……ちっ。待てよ!!」


今度こそ校舎内のどこかへ隠れようと走り出したそのとき。

頭を押さえた男が後ろから数メートル離れたこの距離で聞こえる舌打ちをしたかと思うと、制止の声を上げた。

なんで待つと思っているんだろう。
馬鹿なんじゃないのか。

心の中で悪態をつきながら制止の声を振り切り、校舎の中へと飛び込んだ。


「げっ、あいつまじかよ」


靴を履き替えることをせずに校舎へと入った私の足元を見て苦い声を出す大学生たち。

それもそのはず。

実は、さっきも逃げるのに必死で上靴を履いたまま外に出ていた。

人目のつかないところなら先生にも会わないだろうし、まぁいっか、背に腹はかえられぬと自分に甘くした結果だ。

まさかそれがここで良い働きをするとは思ってもいなかったけれど。


廊下に土を落とすことになってしまってごめんなさい。
今度掃除するときは念入りにやるので、今は許してください。先生。


「あー!あんなところにいた!!」


玄関から入ってすぐの廊下、階段の手前についたとき、聞き覚えのある高い声が聞こえ、そちらに目を向ける。


「委員長!ゴー!!」


今いる場所の二つ隣の教室の前にいる先輩と不幸にも目が合ってしまい、あの高身長委員長にゴーサインが出された。


なんだっけ。こういうテレビ番組なかったっけ。
挟み撃ちをされて捕まる理不尽さ、恐怖を実感している。


まだ捕まってないし、捕まる気もないが。

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