毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「おっ?意外とまだ近くにいたんだな」
先輩たちに気を取られている間に追いついたらしい大学生がこちらへ腕を伸ばす。
この辺りはクラスの出し物が少なく、それに比例して人も少ない。
お得意の人の間を縫って逃げる方法は取れないし、相手方も私を追いかけやすいようだ。
伸ばされた腕を、すんでのところで後ろに飛んでかわし、階段を二段飛ばしで駆け上がった。
短い脚でも瞬発力があればなんとかなるもの。
───タッタッタッ。
それからは階段を上ったり、下りたり。
渡り廊下を走ったり、校舎へと上靴のまま飛び出したり。
かれこれ十分、走り続けている。
文化祭の日に体育祭以上のハードな運動をしている気がするのだが、それは気のせいではないだろう。
私は必死に逃げ続けているのだが、相手方はもはや楽しんでいるとしか思えない。
大学生の方なんか、特に。
私なんか追いかけずとも純粋に出店やステージを楽しめばいいものを。
『可愛いJKを追いつめて苦しんでる顔を見るの、超そそる』
なんて、犯罪者予備軍みたいなことを言っていたのが後ろから聞こえた。
この人絶対サディストだな。確信がある。
「……っ、はぁ。はぁ」
体力に自信がある私とはいえ、五人に追いかけられ、某テレビ番組のような逃走をしていたら当然疲れる。
息も切れ始めたし、そろそろ限界だ。