毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
───ガラッ。
「───んぐっ?!」
ガタンッ。カチャッ。
暑いし疲れたししんどい。
熱中症にでもなったのか、それとも酸欠か。
意識が朦朧としつつも走り続け、渡り廊下の角を曲がった途端。
突如、横から現れた手が口を塞ぎ、もう1つの手が腰に回され、力強く教室へと引き込まれた。
そしてすぐに手から解放されたかと思うと、ドアが閉められ、鍵もかけられる。
予期せぬ出来事に脳内がパニック状態になったが、
「あん?見失った!逃げ足はえーな!」
「まじか。速すぎだろ……急ぐぞ!」
廊下から聞こえる男たちの声に息を潜ませた。
乱れる呼吸を抑えるのは一苦労だった。
それから、空き教室にいるとは露ほども考えていないのか、廊下を突き進み、遠くへ走り去る足音が聞こえ……
「……っはぁー。すぅー、はぁー」
ようやく大きく呼吸をした。
酸素がこんなに美味しく感じるのは、中学生での持久走大会をぶっちぎりで完走して以来かもしれない。
ふぅ……と、もう一つ息を吐いて無意識にこめかみの汗を拭ったところで、自分が汗だくになっていることに気づいた。
同時に、誰かに助けられたという事実にも。
その事実にはっと気がつき、腰に回されたままの腕を視界に入れた後、背後から私を覆うように支えている救世主を確認した。