毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす

嵐の前





文字通りドタバタした文化祭が終わって一週間。


私はバスに揺られながら窓の外を眺めている。

山道を上っているようで脇にわさわさと高くまで伸びた竹や緑色の葉をつけた多くの木しか見えない。

その隙間からたまに零れている太陽の光が眩しくもキラキラと輝いていた。


「かれんちゃん!お菓子食べる?」


前の座席に座っていたなっちゃんが座席に膝立ちをして、やたら高いテンションでこちらへと身を乗り出す。


「……はぁ、小学生の遠足じゃないんだから落ち着いて。ちゃんと座りなさい。危ないでしょ?」


呆れた口調で、私の心の中で思ったこと全てを代弁してくれたのは隣に座っている凛ちゃん。

なっちゃんは言われたことに不満そうに眉を寄せ、むっとふくれた。


私はと言うと何も言わずに成り行きを見守っている。
……見守っているといえば聞こえはいいが、要は触らぬ神に祟りなし、なのだ。


「でもでも!お泊まりだよ!学校行事だけど、みんなでお泊まりだよ!!絶対楽しいじゃん!!楽しいに決まってる!!」


まだ行きのバスの中だというのになっちゃんのテンションは最高潮らしく、その言葉にはやたら熱がこもっていた。


本当に楽しみにしているんだということがわかる。

二学期が始まって文化祭に宿泊訓練にと行事が立て続けで行われ、再来週には定期テストだというのだ。


文化祭の準備の合間にちまちまと、しかし急ピッチで進められた授業に文句を垂れる生徒が多かったことは記憶に新しい。


楽しいことだけじゃないよ、勉強も必死こいてやるんだよ、というまさに飴と鞭。鬼畜である。


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