毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


……そう、思っていたのだけど。


「じゃあ、二人とも儀式の神役よろしくなー」


バスを降りてすぐ呼び止めたかと思えば、ひとつの部屋まで連れてきてあっけらかんとした口調で言い放った目の前の担任。


儀式の神?
なんで私?なんで王子様?

そしてなぜ前もって言っておかない?


女子達に刺される前にこいつを刺してしまおうかとちょっと本気で殺意が芽生えた。


「先生、話が見えません。説明をお願い出来ますか?」


私と同様呼び出されたらしい王子様が丁寧にお願いする。
このふざけた大人に向かってその対応を出来る王子様は本当に人が出来ていると思う。


「今日の夜にキャンプファイヤーがあるのは知ってるよな?火の神役である水上がまず、儀式の言葉を読み上げる。そのあと、松明を持って井桁の前まで行き、火を灯すんだ」


井桁って木を積み重ねて薪を燃やすところのことだったか。
松明で火をつけるところもやるのが本格的な儀式っぽい。

ただし、本格的な儀式ならなおさら、


「私が知ってるキャンプファイヤーの儀式は火の神だけで、女神様は登場しなかった気がするんですけど〜」


へらっとした担任に合わせてへらっとして、自分の知識との相違点について指摘した。

"ぽわ〜"っとした雰囲気も、気の抜けた"へらっ"とした空気も、どちらもおバカな妹によく合うオーラ。


この前は睡魔に負けて気にしないでいたが、改めて考えてみると王子様の意味深な言葉は軽視してはいけないもの。
ここは気を引き締めて演じるべきだろう。


< 78 / 207 >

この作品をシェア

pagetop