毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
最近、よく誰かの中に収まりがちじゃない?
私、大丈夫?
そのうちつけこまれて痛い目見るんじゃない?
……もっと体幹を鍛えよう。
男の人に手を引かれても留まれるようにしないと。
「あのぉ……離して貰える?私、早く戻らないといけないんだよね〜」
「連絡先を教えてくれたら離すよ」
飄々とした態度を変えずに即座に答える。
思いっきり睨みつけようと今度は真正面から男の顔を見上げるが。
……やっぱり顔がいい。
もしも弟がいたとしてこんな顔だったらブラコンになっていた自信がある。
こんな状況の中、そんなくだらない想像をしているのは心にゆとりがある証拠なのだろう。
ただ、決して顔の良さにほだされたわけじゃない。
学校の行事でナンパするような男の中身はきっとぺらっぺらだ。
そう思うとくだらない想像は一瞬で脳内から消え去った。
「も〜、めんどくさいなぁ。離してってば」
実力行使をしたいけれども、文化祭の時とは違って人目も多いから拳に頼るのは難しそう。
拳をふるうことでキャラ崩壊に繋がるのは非常にまずい。
というか、むしろ人目が多いから助けて欲しいんだけどね。
こんなにか弱そうな女の子が絡まれているんだからギャラリーの中の誰かしらが助けてくれたっていいじゃない。
こういうときは他力本願に限る。
「──その子、俺のだから手を離して」
心の中で救いを求めていると、神様がそれに答えるように誰かが私たちのやり取りに割って入ってきた。
後ろから聞こえてきた声に、心の中でお礼を言いながら姿をとらえるためにも振り向くと。