毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「……ってお前かい!!」
おっと。
ついつい素で突っ込んでしまった。
これは非常に良くない。
"俺の"なんて言葉が聞こえるものだから私の彼氏がかっこよく登場するのかと思えば、現れたのは担任の先生。
よく考えたら慎くんは俺のものなんて言いそうにないな。
胸きゅん展開なんて期待していないから、助けてくれるのならなんでもいいんだけど。
「こほんっ……先生!来てくれてありがとうございます!この人が手を離してくれないから部屋に戻れないんです……」
とりあえず咳をして誤魔化してみた。
大丈夫。さっきあなたたちが見たのは幻覚だから。
今、目を潤ませて先生に縋り付くか弱き者こそがお人形さんである可愛いかれんちゃんだから。
さっきのことは忘れてね。
「おー、"俺の"って言葉は"俺の生徒"ってことか。ここで問題になるのも面倒だなぁ……ここは大人しく退散しよう!」
「ぜひそうしてくれ」
「じゃあここでのことはなかったことに、ね?」
「そうだな。大人しく引いてくれたし目を瞑ろう」
「よろしく!また会おうね、お人形さん」
先生が現れてから一分足らず。
終始無言だったお友達と共に、私達が向かう反対側へと歩いていった。
私が拒否しても離れなかったのに、先生が来るだけでこんなに解決するなんて。
持つべきものは権力なんだなぁ……。
しかし、最後の"また"という言葉に執着が見え、思わず苦い顔になる。
ここにいる間は極力部屋の外に出ない方が良さそうだと察した。