毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
『クラスの子達と親睦を深めよう!』がテーマのこの行事において、班を自分達で決めることは出来なかった。
平等にくじで決めた。
そして宿泊訓練は団体行動を出来るようになることを目的としているため、基本的に班で行動することになる。
したがって、クラスの中で八つに分かれたグループで二人と同じ班になることは叶わず、食事も別となったのだ。
とりあえず、目が合ったなっちゃんには大丈夫という意を込めて頷いておく。
「んーと、誰だっけ?忘れちゃった」
もぐもぐ、ごくんっと飲み込んでからようやく絡みに応じる。
にこっと愛想の良い笑みも添えて。
「えっ……なんで?さっき会ったばっかりじゃん!」
「なんのこと?さっきって、なにかあったっけ?それに……」
もったいぶって、一度言葉を区切る。
「……あったとしても"なかったこと"だよね?」
「あぁ……」
きっと、つい数時間前の出来事……担任と自分のやり取りを思い出していることだろう。
『問題になると面倒だからなかったことにしたい』というナンパくんの意志を尊重してあげたのだ。