毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


ともかく、目が合ったからには愛想良くすべきである。
私はそういうキャラなのだから。

そう思って自分の中のレベル二くらいの笑顔を向けた。


「……は?」


『え?……は?』

と、こちらが声を出しそうになってしまった。


笑顔を向けた途端に固まられ、低い声を漏らされ、数秒後に全力で顔を背けられるだなんてわけが分からない。


咄嗟に喉の奥をきゅっと閉めて声が出ないようにしたからかろうじて留まったものの。
今までされたことの無い態度に、脳内は疑問符で埋め尽くされる。


……が、私は演技派高校生。
少し冷めた夕飯に向き直り、何事も無かったかのように好物のチキン南蛮一切れを口に入れた。

うん、タルタルソースの玉ねぎが濃厚なソースの中でさっぱりと主張していて美味しい。
濃いめの味付けは私好み。

脳内が混乱しようとも、一瞬で夢中にさせ、リセットしてくれるご飯は大正義だ。裏切らない。


一旦落ち着いたところでさりげなく女の子がいたところへ目を向けると、さっさとこの場を去ってしまったらしくそこには誰もいなかった。


「──今日のところは諦めるけど、」


後ろから投げかけられた声にびくっと肩が跳ねる。
女の子とご飯に夢中になってしまい、本気で彼の存在を忘れてしまっていた。
ナンパ野郎だけど、申し訳ない……。


「学校の近くで会ったら……逃げられないよね?」


耳元で囁かれた、先程までの高めの声とは段違いに低い声。
ぞくりと震えたのは彼の言葉の意味に対してだけではない。


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