毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「あ、弱点はっけーん。触られるの、意外と慣れてないんだ」
楽しそうに、弄ぶように人差し指を私の耳にすっと沿わせる。
こそばゆいような……そうではないような、そんな感覚に戸惑う。
ひとまず箸を置いて、右手で男の子の手を払うと耳全体を覆った。
……今日のところは諦めるんじゃなかったのか。どうしてまだ私に構い続けるんだ。
とにかく私から離れてほしい。
そんな動揺する私を見て心が満たされたのだろうか。顔を見なくてもニヤついていることがわかるトーンで男は言葉を続ける。
「彼氏がいるって聞いてたから、こういうの慣れてるのかと思ってた。もしかして……キスもまだしたことない?」
キス、の部分を強調しながら私の顎をクイッと上へ向かせる。
その途端、今まで黙ってこちらの行く先を見ていた生徒たちがざわつく。
主に女子たちのざわめきだ。
強制的に合わせられた瞳の中には動揺を隠しきれていない私がうつっていて、目の前の男が手を払われてもなおもう一度触れてきた理由がわかった。
「さぁ、どうだろうね?あなたには関係ないでしょー?」
「関係あるよ〜。だって、今ここでこのままキスしちゃったら、それが君にとってのファーストキスになるかもしれないんだもんね」
危険度0%です、みたいな純粋な笑顔を浮かべていながら言っていること……やろうとしていることがかなり危険だ。
乙女のファーストキスはめちゃくちゃ重いんだからな。
それを無理やり奪おうだなんて私が黙って──
「───俺の彼女に触るな」
パッとナンパ男の手首を掴んで私から離したのは、颯爽と現れた私の彼氏。
意外と慎くんも黙っていなかった。