毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「さっきの口ぶりからすると、彼氏がいるって知ってたんだよな?それでもしつこく絡み続けるってどういう神経してんの?」
そこには普段の優しさの欠片も存在しない、憤慨している様子の慎くんがいて、ナンパ男の十センチ程度上から威圧的に見下ろしている。
ナンパ男もそれが気に食わないのか、奥歯をギリっと噛み締めたかと思うと、大きく腕を振り、掴まれていた手を強引に払って距離を取った。
「別に、付き合ってるだけなんだから声かけるくらいいいでしょ。結婚でもしてるなら話は別だけど。それにさぁ……」
言葉を区切って、にやりと。私で遊んでいた時と同じ、よからぬ事を考えていそうな顔をした。
「キスもしたことないみたいだし、二人の間には愛がないのかな、って思うんだよね!」
「……っ!」
ぐさっと矢が貫いたのかと錯覚するほど、慎くんは目を見開いて、悲痛そうに顔を歪める。
「触れられるのも慣れてないみたいだし?もしかして、ハグもまだとか?」
「…………」
「あっははっ!図星なんだ!うんうん、面白いね!」
上から見下ろされていた形成から逆転して、愉快そうに笑う。
慎くんは気にしていたことをずばりと突かれて何も言えない。
足元に視線を落としてナンパ男の好戦的な視線から逃げていた。