毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


次のターゲットは私らしく、慎くんに向けていた視線をこちらへとずらす。

私はどんな風に攻撃されるだろうか?


言葉でなら言い負かす自信がある。
ただ、それを露骨に出してしまうとおバカ感が薄れてしまうから、口調も言葉選びもしっかりとしなければならない。


それに、私が恋人らしいスキンシップには疎いということが相手にバレている。
さっきからそこで動揺していて隙を見せまくりだ。

飛んで来るであろうセリフに身構えた。


「ねぇ、なんで君は彼と付き合っているの?」


それは攻撃的な言葉ではなく、意外にもシンプルな問いかけだった。


なぜ付き合っているか。

男避けのためだ。
理由はずっと変わらない。きっとこれからも。

でも、それを本人へ伝えるつもりは無い。
かといって縛り付けるつもりもない。


自分の身勝手な理由で利用し、縛り続けるほど悪女ではないと思っている。いや、今の時点で既に悪いことはしているのはわかってるんだけど、最低ではないはず……たぶん。


暗くなる思考を振り切って問いかけに対し、一拍置いて明るく答えた。


「一緒に過ごす時間が楽しいからだよ」


『好きだから』


なんて、嘘でも言えなかった。
だって未だに慎くんを特別視することは出来ないし、彼の特別な存在になりたいという欲もない。


彼にとって私は特別でも私にとってはそうではない。
それがはっきりとわかってしまっている。

だから、探るように光らせているその目を見据えて本当のことを言った。


へぇ、とどこか納得していない様子で頷く彼。


慎くんは私の言葉で少しは元気が出たのか、さっきほどの鋭さはないものの、そんな彼を再び睨みつけている。

好きと言わずとも元気になってくれた彼は欲がないなとつくづく思う。


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